『いい人探しの末路』地方都市の働き方改革

こんにちは。
金沢で総合人材サービス会社に勤務の傍ら、新しい働き方を研究している髙木眞澄です。
北陸新幹線が開通し、世界で一番美しい駅に選ばれた金沢駅には、日々世界中からゲストが訪れます。人口46万人程の金沢市を訪れる観光客は、今や200万人に達する勢い。
人が動くところに経済の発端はあり、人の動きに、モノやコトが大きく連動して、金沢を核にした北陸の経済は、これまでにない大きさと勢いで躍進しています。
しかしその一方で、経済を提供する側は深刻な人不足に陥っており、首都圏で推進されている働き方改革とは程遠いのが事実です。
地方都市の働き方改革とは何かを色々な角度と視点から捉え、地方都市ならでは新しい働き方を考えていきたいと思います。

「働き方改革」が花盛り
あちこちのメディアやコラム、サイトでこの文字を見ない日はない。
「改革」「改革」と声高に叫ばれてはいるものの、
では何が改革なのかと問われれば、明確な答えもないままに言葉だけが踊っているように見えて仕方がない。
ましてや地方である。
お江戸の流行がたどり着くまでに2年掛かると言われ続けている地方都市である。
今、地元企業で「働き方改革」と声を挙げているところは少ない。
いくら新幹線が速くても、まだまだお江戸は遠く、温度差もあるのだ。
そもそも、改革する「働き方」があるのか。
いや「働き方」を変えようという意思があるのか。
考えも及ばないのが大半ではなかろうか。
何故か。
慢性的な人不足が解消されず、妥当な解決方法が見つけられず、目の前の仕事をこなすことに右往左往しているからである。
「ハケン」会社へ企業から相談がくる理由
総合人材サービス、謂わゆる「ハケン」の営業である私にいただく相談は様々だが、大体パターンは決まっている。
人が足りない。数が足りない。
ハロワや求人広告を活用しても人が見つからない。
採用した人の定着が悪い。
今ある仕事をこなすための人員が足りず、埋められず、既存の社員やスタッフに負荷が掛かり、どんどん疲弊して、やめてしまう。辞めざるを得ない状況に陥ってしまう。
新しい人を入れても、十分な教育を施す余力がなく、本人のポテンシャルを読み切れず、使いこなさずに現場に一任(=丸投げ)し、戦力として駒のように使役するものだから、駒にされた当人は「職場環境が合わない」と辞めてしまう。
さらに求人を出し続ければ、求職者には目にもつくのだが、こんなに頻繁に求人がかかるのはこの会社に何か問題があるからではないかと、求職者に敬遠されてしまう。
現場の人手不足は解消されず、負荷がかかり続ける。
悪循環なのだ。
そうした現場では、プレミアムフライデーも有休も、そもそも公休すら形骸化してしまう。週休3日の導入なんて、どこか異国の神話に過ぎない。三六協定は何処へやら、残業もサービス残業も休日出勤も、負荷という負荷がまかり通ってしまっている。
「仕方がない」のである。
けれど、程なく仕方がないままでは済まなくなる。
現場は疲弊困憊するからだ。
無意識のブラック化は珍しくない。
企業は途方にくれる。
ではどうするか。
短絡的に考えつくのが、外注、アウトソーシングやハケンである。
高単価で取引依頼をすることになるが、それでも現状が打破できるのならと、藁をもすがる思いで、頼らざるを得ない。
また、そう思い込んでしまう。
こうなっていく背景は、もっと複雑で、個々の事情というのもあるが、大抵は人事採用担当と現場の疲弊度がその最たる要因である。
しかし、これとて最善策ではない。
人手不足は外注だろうとハケンだろうと変わりはない。
かくして企業の人事担当者は、複数の派遣会社に手配を注文することになる。時にはその数は10数社にも及ぶ。
そして口を揃えて言うのだ。
「いい人をお願い!」

余談だが、地方都市の人情は厚い。
ハケンから来ようがハロワから来ようが、一旦受け入れてしまえば「ウチの会社の人間」という情が発生する。地元企業で、少人数の会社であればあるほど、こうした傾向が強い。
雇用形態の異なることなど脇に置いて、「ウチの会社」で一生懸命働いてくれる人を大切にしようとする。してくれる。
しかし、これもここ数年、徐々に薄れていっている。
ただでさえ疲弊困憊の現場である。余裕がないのだ。
すると当然、外部ファクターであるハケンはぞんざいに扱われやすくなる。
ろくに教えもせず、面倒も見ず、おざなりの導入教育で現場に丸投げとなる。
うまくいくわけがない。
様々な理由をつけて離職していく。
担当営業に苦情が来る。
代替え人員の要請がある。
その時添えられる言葉の8割がこうだ。
「次はいい人をお願いね!」
そもそも、自分の足元を見ていない。
何故こんなことになったのか、検証がなさすぎる。
足場を固めず、上物を整えても、それは欠陥住宅にしかならないことは明白なのに。
しかも、問題は他にもある。
きちんとした計画を立てずに採用していく現場では、外部ファクターであるハケンを自然と格下に位置付ける風潮がある。
社員はもとより、契約社員やパートといった「直雇用組」の言動が、ともすればパワハラ・モラハラの気色を負う。
>>名前を呼ばれず、「ハケンさん」と呼ばれ続けるのは何故なんでしょう?
>>たまたまハケンで就業しているだけで、同じ仕事をしている仲間にはしてもらえないんですね。「ハケンのくせに」と言われた時はショックでした。
>>契約社員に罵倒されて、思わず言い返して大ゲンカとなり、契約途中で離職することになった。
派遣先の社員にお咎めはない。
諸々の相談は絶えない。

考えたいのは、大元、足元だ。
そもそも何故に、どんな理由で、御社に人がいないのか?
当たり前のことを、真摯に当たり前に考える。
そして、解決策を検討していく。
ゴールはどこかを明確にする。
柔軟に対応していく。
疲弊している自分の最後の力を振り絞ってでも、考える必要があるのだ。
現場を治めて初めて、改革の一歩を踏み出せる。
現状を治めることこそが、地方都市の改革に繋がらないか。
「いい人」なんかいないのである。
「いい人」を育てる土壌が創れるか否かだ。
いい土壌を創ることはできる。
何故なら、先にも述べたが、地方都市の人情は厚い。
本来、面倒見はいい。
育てる土壌ができたなら、人は自ずと育っていく。
「いい人」神話を捨てて、畑を耕す。
撒かれた種に水をやる。
こうした育成のできる現場は強い。
アウトソーシングやハケンに即戦力を求めることも一つのテだが、どこから来ても、どこで見つかってもいいつもりで、「育てる種」「活かす苗」を探してみてはどうだろうか。
ひいてはそれが「働き方改革」に繋がっていく。
地方都市には地方都市の改革があっていい。