top of page

『言葉よりも関係性』2年で売上を5倍に伸ばした組織の成長プロセス - ガイアックスの最年少事業部長が目指す理想の組織とは(1/3)-

ソーシャルメディアとシェアリングエコノミー業界で事業を展開している株式会社ガイアックスで、26歳にして同社最年少で事業部長に就任。そして、2019年3月からはカンボジア、4月オランダ、5月ドイツ、6月デンマークと毎月異なる国に拠点を移して生活をしながら働くという管大輔さん。

どうやら、このライフスタイルを『アドレスホッパー』と呼び、若者の間で広まりつつあるそうです。

アドレスホッパー = アドレス(住所) + ホッパー(転々とする人)

『アドレスホッパー』とは、『家を持たない人』を意味する造語だそうです。遊牧民を意味する『ノマドワーカー』と似ているようですが、『アドレスホッパー』は、生活道具を最低限しかもたないミニマリストが、定住する家は持たずに拠点を点々と変えながら生活する人のことを指していて、『ノマド』がさらに進化したとライフ&ワークスタイルと言っても良さそうです。

金沢に滞在中の管さんがアドレスホッパーについてNHKから取材を受けた時の様子が動画で公開されています。

また、定額制で全国どこでも住み放題の多拠点コリビング(co-living)サービスを展開するとして話題の「ADDress(アドレス)」は、ガイアックスの社員が立ち上げたスタートアップです。URLはなんと”address.love”。

そんな管さんが、海外でのアドレスホッパー生活を始める直前に金沢に1週間滞在し、3月9日、金沢大学の学生と高校教師が主催するセミナーに登壇されるとの情報をキャッチ。その様子を3回に分けてレポートいたします。(山崎)

 

- 海外生活を始める直前に金沢に滞在することになった理由 -

管大輔さん:「1月に東京で開催された飲み会に参加した際、たまたま隣りにいた宇波さんに誘われたからです。

『海外行く前に金沢に来てくださいよ〜。』

『わかりました〜』

社交辞令で言ったつもりが、トイレから戻ってきたらすでにチャットグループが作られ、日程調整や宿の予約が進んでいたのです。なので行かざるを得ず、今日に至ったというわけです。」

 

山崎:「宇波さんに強引に誘われたわけなんですね。ちなみに、宇波さんもアドレスホッパーだそうです。」

 

- ガイアックス史上最年少の事業部長が誕生するまで -

管大輔さん:「2013年に新卒でガイアックスに入社しました。1年目は会社の近くに家を借り、朝から晩までがむしゃらに働くという日々。同期の中では早く成果が出せた方だと思います。

ところが、2年目にはもう仕事に飽きはじめ、複業を始めたり、休みを多く取ってみたり…。それでも営業成績が落ちることはありませんでした。

『もっと成長したい。もっと上を目指したい。このままでいいんだろうか?』

そんなモヤモヤした感情を抱きながら働く日々が続きました。今になって考えると、当時の成果なんてちっぽけなこと。でも、当時の僕はすっかり一人前気取りで有頂天になっていたのでしょうね。そんな僕から徐々に仲間は離れていき、気が付いたら社内で孤立していたのです。

そして、入社2年目が終わる頃、僕は他社から誘いを受けて転職を決意。給与等の条件も決まり、あとは社内への報告を残すだけ。そんな時、ある日の執行役との会話が、この先の僕の方向性を大きく変えることとなったのです。

『君はなぜガイアックスに入ったの?』

『この会社でやりたかったことができたの?、それとも現状からの逃げなの?』

ハッとしました。職場での身の回りには課題が山ほどあるのに、僕はそれを何一つ解決しようとしてきませんでした。やるべきことは見えていたのに、やらない理由ばかりを探していた。そんな自分に気付いたのです。

悶々としながら自問自答を繰り返した後、執行役に自分の思いをぶつけてみることにしました。

『幾つもの課題を抱えた今の組織に不満を感じています。しかし、僕はその課題に対し何一つとして行動をしてきませんでした。もしガイアックスに残るのなら、それら全ての課題を解消しにいきます。そして、3年で売上を10倍に伸ばす事に挑戦します。その道筋も見えています。これを実現するための時間と権限を僕にください!』

『執行役は一事業部の運営方針には口を出さない』というのがガイアックスでの通例となっています。しかし、その時だけは別。僕がどれほど本気なのか、そして実現する可能性があるのかを見極めるために、2〜3ヶ月の間、執行役自ら部署内の会議に参加するなどの行動を取ってくれたのです。

『やりたいこともわかったし、可能性も見えた』

最終的に執行役からはそう言われ、僕は事業部長に就任することとなったのです。」

 

山崎:「日本の新卒者が入社3年以内に離職する割合は、中卒7割、高卒5割、大卒3割と言われ、離職の原因はミスマッチだと考えられてきました。ところが、管さんのケースのようにミスマッチではなく、『今の会社では、自分の夢や成長が実現できない』などキャリアアップのための転職を離職理由とするケースが増えているようです。残ることを決断した管さんには、この先にどんな出来事が待ち構えているのでしょう。」

 

- 言葉よりも関係性 「その言葉、あの本の内容でしょ?」-

管大輔さん:「マネジメント経験がない僕に、最初から事業部長がうまく務まるはずがありません。そこで僕は、ひたすらビジネス書を読み漁り、本に書いてある通りに会社で実践してみました。しかし、マネジメントの真似事をしてもうまくいくはずがありません。そしてある日、歳上のメンバーに「その言葉、あの本の内容でしょ?」と言われてしまったのです。ドキッとしただけではなく心底恥ずかしかった。

『3年で売上10倍を目指す』という目標に対するメンバーの反発は相当なものでした。高い目標を達成すれば、昇給、昇格も大きくなる。その結果、皆んなハッピーになれる…はず。そう信じていたのですが、どうやら勘違いしていたようです。

『なぜ無理な目標を背負ってまで働かなくちゃいけないの?』

こう言われた時は悩みました。

『僕は何のために働いてるんだろう?』

『何のためにガイアックスにいるんだろう?』

社内外のマネージャー、経営者に相談してみました。すると、共通して言われたのが『言葉よりも関係性が大事』だということ。

『テクニックはあくまでも手段でしかなくて、大事なのは信頼関係という土壌作り。土壌が整ってなければどんな手段も使えない。大事なことを見落としてるよ。』

それからは純粋に一人一人のメンバーと向き合うことにしました。職場での嫌なこと、人生における仕事の優先順位、プライベートとのバランスなど、メンバーの価値観をひたすらヒアリング。すると徐々にメンバーが自己開示してくれるようになってきたのです。同時に、自分が事業部長としてすべきことも見えてきました。」

 

山崎:「立教大学経営学部で、企業・組織における人材開発・組織開発を研究している中原淳教授は著書『働く大人のための「学びの教科書」』の中でこのように述べています。

『人は「ソロプレーヤー」から「管理職」への移行に際して、「生まれ変わる痛み」のようなものを体験します。』

管さんが直面したのがまさに「生まれ変わる痛み」ですね。

『何のために働く?』『働くとは?』。メンバーの言葉がきっかけとなり、管さん自身の内省が始まったようです。関係性という土壌づくりを怠っていては、作物は育たちません。メンバーとの信頼関係をどうやって構築していくのか気になるところです。

 

- 業績が好調だから社員が幸せなのではなく、社員が幸せだから業績が好調になる -

管大輔さん:「そんな時に出会ったのが『幸福経営』という言葉です。かなり乱暴に説明すると、『業績が好調だから社員が幸せなのではなく、社員が幸せだから業績が好調になる』という考え方です。

『高い目標に向けてがむしゃらに努力をし達成すれば人は幸せになれる。』

そうではなく、『幸せだから高い目標でも達成できる』というのです。

「幸福学」を提唱する幸福経営の第一人者である、慶應義塾大学大学院の前野隆司教授や、ホラクラシー経営を実践されているダイアモンドメディアさんの話を聞きに行ったり、東大の公開ゼミに参加したりと、情報収集を始めました。

学んできたことは全てメンバーにフィードバックするとともに、こんな問いかけをしてみました。

『あなたにとっての幸福って何ですか?』

『今の職場環境でこれだけは変えてほしい点を一つあげてください。』

職場環境の改善に関するリクエストは、1ヶ月以内に実現するようにしました。

すると、変化が表れ始めたのです。いつ辞めてもおかしくなかった一回り年上のメンバーが、評価面談の時にこう言ってくれました。

『管さんがなんで事業部長になったのか、当初は全く理解が出来ませんでした。でも、最近になって管さんが実現したいことが徐々にわかってきたような気がします。

自分が今学んでいること、実現したいこと、そのためのプロセス、途中経過など、全て開示してくれるので、信頼してもいいかなぁって。また、自分自身、今の仕事が楽しいですし、これからも管さんの側で仕事がしたいです!』

人の幸せに向き合うことで、あんなに僕のことを毛嫌いしていた人がここまで変化するとは、思ってもいませんでした。

『3年で売上10倍』という目標を達成するには、次々と新たな施策を実行し続けなくちゃいけません。でも、無理をすれば必ずどこかにしわ寄せがいきます。それがメンバーのストレスとなり、いずれ行き詰まるのは明らかです。

だからこそ、一人一人が仕事に集中できるようストレスフリーな環境を作ることにしたのです。そうすることで、メンバーが自ら考え、選択、判断し、自発的な行動を取るようになるはず。メンバーの創造性を最大限に引き出すことが、高い目標を達成するための近道である。そう幸福経営から学んだのです。

その後の2年間で売上は5倍になりました。その間、メンバーには数値目標を課したことはありません。目の前のクライアントに貢献することと、各々のメンバー自らがやるべき事を考え取り組むよう促しただけです。従来の数値目標を押し付けるだけのやりかたでは決して達成できなかったと思います。

自己実現と自己成長にしか関心が無かった僕が、幸福経営を学ぶことによって、仕事を通して他人の人生に関与できるという喜びと幸せを感じることができました。また、幸福経営は職場だけではなく家庭のコミュニケーションも良好にする。今は全てにおいて幸福が重要だと考えています。」

 

山崎:「幸福学を研究している慶應義塾大学大学院の前野隆司教授はこう仰っています。

『やってみようという意思で仕事に取り組めば幸福度が上がる反面、やらされ感があると幸福度が下がる。そしてこの幸福度こそ、創造性や生産性を左右するということが、さまざまな研究でわかってきた。幸せな社員は不幸せな社員よりも創造性が3倍も高く、労働生産性は1.3倍高いというデータも出ている』(AERA 2018.9.17)

嫌な仕事でも、しばらくの辛抱だと思って頑張れば、短期であれば乗り越えられるかもしれません。しかし、長時間息を止めておくことはできません。

『働く人の幸せこそが企業に繁栄をもたらす』

との考え方は世界的な潮流になっています。

前野教授によると、社員と職場の幸福度は次の4つの因子がバランスよく満たされている事が重要だとしています。

  • やってみよう!

  • ありがとう!

  • なんとかなる!

  • あなたらしく!

あなた自身やあなたはどうでしょう?前野教授が作成した幸福タイプ診断がオンラインで受けることができますのでチェックしてみましょう。

【参考】NIKKEI STYLE 白河桃子 すごい働き方革命 前野隆司慶応義塾大学大学院教授

また、『人間の強み』を発見するためのツール『ストレングスファインダー』を開発したギャラップ社が、全世界のビジネスパーソンを対象に実施した「12の質問(キュー・トゥエルブ)」で社員幸福度を測定した結果を発表しています。

日本企業は「熱意あふれる社員」の割合が6%と、米国の32%に比べるととても低く、調査した139カ国中132位と最下位レベル。

さらに、「周囲に不満をまき散らしている無気力な社員」の割合は24%、「やる気のない社員」はなんと70%に達しているとのこと。

日本の労働生産性が低い原因は、社員幸福度の低さが大きな要因の一つのようです。

幸福経営と出会うことで経営に対する価値観が大きく変化した管さん。さらに社員の幸福度を高め、組織を成長させるためにどんな取り組みをしたのでしょう。第2話では、階層組織で指示命令形容が明確な『ヒエラルキー』に対し、意思決定を分散化する新しい組織の運営スタイルである、『ホラクラシー』や『ティール組織』についてのお話です。」

 

第2話はこちら:

 

筆者プロフィール

山崎ジョー吉

複数の企業に所属、あるいは契約をして働くポートフォリオワーカーとして働きつつ、地方での未来の働き方を発明する「金沢発!働き方の未来研究所」を立ち上げ、所長に就任し、地方における働き方改革の推進と啓蒙活動を行っている。キャリアコンサルタント。

最新記事
アーカイブ
タグから検索
ソーシャルメディア
  • Facebook Basic Square
  • Twitter Basic Square
  • Google+ Basic Square
bottom of page