売上目標を手放し、『仕事用の仮面を外す』ことで手に入れたもの - ガイアックスの最年少事業部長が目指す未来の組織とは(2/3)-
ソーシャルメディアとシェアリングエコノミー業界で事業を展開している株式会社ガイアックスで、26歳にして同社最年少で事業部長に就任。そして、2019年3月からはカンボジア、4月オランダ、5月ドイツ、6月デンマークと毎月異なる国に拠点を移して生活をしながら働くという管大輔さん。どうやら、このライフスタイルを『アドレスホッパー』と呼び、若者の間で広まりつつあるそうです。
そんな管さんが、海外でのアドレスホッパー生活を始める直前に金沢に1週間滞在し、3月9日、金沢大学の学生と高校教師が主催するセミナーに登壇されるとの情報をキャッチ。その様子を3回に分けてレポートする第2話。
さて、『ティール組織』や『ホラクラシー』といった言葉を聞いたことはありますか?これらのキーワードで検索をすると、ガイアックスの社名が出てきます。第2話ではガイアックスのそれらの取り組みについてのお話です。(山崎)
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- ティール組織って何? -
ティール組織とは、2018年1月に「ティール組織」フレデリック・ラルー著の日本語訳版が英治出版から発売されたのをきっかけに、勉強会や読書会が全国で多数開催されるなど、注目されている組織論のことです。「言葉は聞いたことはあるけど詳しくは知らない」という方が多いのではないでしょうか。そんな方のために簡単にご説明します。
ティール組織とは「社長や上司が全ての事柄に対して一つ一つ判断をし、指示をしなくても、各々が組織の目的実現に向けて意思決定をしながら進むことが出来る独自の工夫に溢れた組織」のことです。
また、組織運営及び経営に関する進化の視点で捉え、意識の進化の段階を色付けし、順にレッド、アンバー、オレンジ、グリーン、ティールの5段階で表現しています。なお、最後のティール組織はレッド〜グリーンまでの組織の進化を内包しています。
ティール組織は、組織の仕組みや形態ではなく思想や考え方で、その思想を具現化した組織形態のことを表します。レッドから進化する順にご説明しましょう。
【レッド型】 1万年前の組織モデル。経営者が圧倒的な力で組織を支配をしていて、目先の利益を追求し行動をする組織。部下が成果を出せば褒美を与える、最古の組織モデルですが、今でも存在しています。
【アンバー型】
ヒエラルキー型の順応型組織。軍隊のような組織と言われています。レッド型が目の前のご褒美のために頑張るのに対し、アンバー型は中長期的な視点で考えて行動します。大きな目標を全員で達成するイメージです。学校や宗教団体といった規律を重んじる組織に多いモデルです。地位が重視され、出世を意識する傾向があります。
【オレンジ型】 最近のスタートアップ企業に多いモデル。実力主義で成果を出せば出世ができる。目標を達成することに喜びを感じるという組織モデルです。
【グリーン型】 トップダウンではなくボトムアップ型の組織。みんなで話し合い、合意形成をした上で行動する組織モデル。全員で対話をしながら意思決定をしていくのでとても時間がかかる点が、変化のスピードが早い競争化社会ではリスク。マインドや思想はとても素晴らしいが、組織の成長を考えるとは実際は運営が難しいモデル。
【ティール型】 不本意だったり、理不尽な仕事の依頼だったとしても、『仕事だから』『サラリーマンだから』『組織の一員だから』『生活のためだから』と言って、自分自身を正当化して仕事を引き受けたことが誰しもあるはずです。そして得た報酬でちょっとした贅沢をしたり、タワーマンションを買ったり、高級車を買ったり。これが従来の働く人の目的であり組織モデルでした。
一方、ティール組織では、『本当にやりたいことは何?』『会社の存在理由は?』『自分がその会社で働く目的は?』といった事をひたすら話し合い、納得した人だけが集まった組織モデルです。社会における、自分や企業の存在意義を理解し、進むべきベクトルが同じ方向なので、各々に委ねてしまっても、間違った意思決定はしません。したがって、経営者は抱え込まずにどんどん手放すことができるというのがティール組織の特徴です。
また、ティール組織では、成功報酬などの外部要因でメンバーの動機づけをすることはできません。自分は何のために生きてるのか。自分の才能をどう活かしていけば良いのか。内省を繰り返すことで存在意義や目的といった自己概念をあぶり出すことが重要です。
『ガイアックスは自己実現するのに最良な組織。だから自分はガイアックスで働く。上場企業だから安心といった表面的な解釈でガイアックスで働いている人はいません。』
ティール組織では階層構造が無いと思い込んでいる人が多いようですが、組織の目的を達成するためには、ピラミッド型の組織の方が適していると判断された場合、フラットな組織からピラミッド型に変えることもあります。むしろ、組織が一つの生命体のように環境に応じて変化しながら最適な状態を模索していくのがティール組織の特徴です。
お互いが信頼し合い、全員に意思決定をする権限が与えられていますので、『上司の承認が下りていないので出来ません』などと言う人はいません。むしろ、『あなたの意思決定を尊重します』というスタンスなのです。
YouTubeに著者であるフレデリック・ラルーの講演の様子がアップされています。日本語訳が表示されますので、もっと詳しく知りたい方は是非ご覧ください。
- 「ティール組織について、ガイアックスの取り組みについて教えてください」 -
管大輔さん:「ティール組織を目指す上で最も重要なのは『仕事用の仮面を外す』ことだと僕らは教わりました。これについて詳しくお話します。
(第1話でもお話しましたが)事業部長に就任した最初の部門目標は『3年間で売上を10倍する』でした。
この部門目標は、僕と2人のコアメンバーの3人で決めたものです。緻密な戦略と実行計画を立てていたので、目標予算を24ヶ月連続で達成するなど、成果は着実にあがっていました。ただ、僕らは喜んでいたのですが、他のメンバーを見るとちっとも楽しそうじゃなかった。
メンバーに話を聞いてみると、『自分たちは3人が作った絵を実現するための駒の一つ』という、やらされ意識で働いていることがわかりました。やりがいを求めて転職活動をしたり、複業を始めるメンバーもいて。危機感を持ちました。
この悪循環を断ち切るために、昨年1年間かけて取り組んだのが組織のティール化です。
昨年末に事業部のメンバー全員を集め、丸一日ワークショップをした時のことです。
ワークショップのテーマは『お互いの存在目的を知る』でした。
1人を囲んで20分間、全員でその人の存在目的についてダイヤログ(対話)をする。それを全員、順番に行うといったものです。
こんな問いが用意されていました。
『あなたはなぜこの組織にいるのですか?』
『あなたはこの組織にどんな貢献をしていますか?』
僕はメンバーからこんなフィードバックをもらいました。
『社外に発信していることと社内の実態との間に、乖離を感じることがある 』
『たまに管さんが何を考えてるのかわからない時がある』
『社外の人の方が管さんの事を理解をしていてたりすると寂しい気がする』
『年初に掲げていた組織の方針と、管さんの日常の意思決定に、ブレを感じることがある』
面と向かってのフィードバックは、与える方も受ける方も簡単ではありません。僕らは去年一年をかけて、お互いの価値観の共有に多くの時間を費やしてきました。「どんな家庭環境で育ってきたのか?」「仕事に取り組む上で大切にしている考え方は何か?」「今、何の制約もなかったとしたら、何をしたいか?」など、単なるビジネス上の関係では踏み込まない内容にも触れました。
その結果、徐々に信頼関係が構築され、相手の顔色を伺うことなく感じたことを表現できるようになったと思います。まだまだ理想には程遠いですが、それでもこのようなお互いの存在意義を問うコミュニケーションを実現できたことには、組織としての成長を感じています。
『自分の強みよりも弱みを見せること』
『あなたの苦手は私の得意』
『それってAさんが苦手なことだよね。私、得意だからやってあげるよ。』
『この仕事、私は苦手だからお願いできない?』
今では、上司がいなくてもメンバー同士がコミュニケーションを取り、意思決定をし、業務を遂行できるように徐々になってきています。誰かの指示通りに動くのではなく、自分たちで考えて、その場その場で最適な選択を行う。これができる組織が理想です。
手法だけを真似しても、ティール組織は作れない
ティール組織は手法ではなく、マインドが重要です。特に経営者やリーダーのマインドがティール型になっているかが鍵。
例えばオレンジ型組織の場合、メンバーが提案してもリーダーが潰してしまう恐れがあります。トップダウン型の組織の場合、リーダーの権力が強すぎて、メンバーがどれだけ頑張っても報われない状態になってしまう。だからこそ、僕らの組織では、リーダーである僕自身にフォーカスを当てられることがほとんどでした。去年、外部のファシリテーターの元で合計24回のセッションを実施しましたが、その内20回以上は僕のマインドや意思決定に関する内容がテーマになっていました。
- ホラクラシーって何? -
「日本では、カタカナの『ホラクラシー』と英語の『Holacracy』で異なる意味を持つと認識されているようです。
英語の『Holacracy』は議論の余地が全く無いくらい明確に定義されている組織を運営するための手法のようなもので、ホラクラシー・ワン社のブライアン・ロバートソン氏、トム・トミソン氏が2007年に開発したものです。
一方で、カタカナの『ホラクラシー』については明確な定義は無く、「自律的」「管理しない」「フラット」のような、従来とは異なる組織運営のスタイルの総称として使われています。
従来の組織モデルでは社長などの特定の人が固有の価値観で判断するのですが、『Holacracy』では、憲法(定義)に照らし合わせ、組織全体が生命体となって、判断、管理、マネジメントを行うのが特徴です。 『Holacracy』を導入している日本企業の一つに、LAPRAS株式会社というAIを使った登録不要の転職サービスを提供しているスタートアップ企業があります。同社はネット上で組織図を公開しているので一度ご覧ください。
【参考】LAPRASの組織図
会社の組織図と言えばピラミッド型が一般的ですが、LAPRASの組織図は円になっているのがわかると思います。『Holacracy』型の会社の組織図は円で表現されます。
一番外側の大きな円が会社全体(General circle)。その中にコーポレート(Corporate)、HR(人事)、採用(Lapras scout)、事業開発(Business Development)いった複数の円があります。それぞれをクリックすると、アサインされているメンバーなどの情報が見れます。
従来の組織図が部署名と人から構成されているのに対し、『Holacracy』ではロール(役割)で構成されます。複数のロールに名前が重複してが載るのは当たり前。ロールは様々な種類があります。例えば、Corporate→総務の中には『バリスタ』や『本棚の管理』『歓送迎会の運営』などがあります。他にもユニークなものがありますので探してみてください。
社員から管理職になると求められる知識やスキルが一気に増えます。例えば、営業マンが営業部長になったら、部全体の売上目標を決めたり、そのための事業戦略を立てたり、採用面接をしたり…。管理職になった途端にスーパーマンのような役割を求められてもロールセットは持ち合わせていないのが当たり前。
『自分の得意なのは営業、でも採用は苦手だから、得意なメンバーに任せる』
営業というロールでは部下でも別のロールでは上司だったりします。
『ティール』組織と『Holacracy』の違い
『ティール組織』が生命体のように変化を繰り返す進化形の概念をベースにした組織体だとしたら、『Holacracy』は厳密なルール(憲法)のもとに運営される実践的な経営手法と言えます。2つに共通する要素は、誰かの手で作られた組織図に従うのではなく、最適なメンバーが意思決定をするという点だと捉えています。ちなみに、『ホラクラシー』は階層型・管理型の組織とは違う組織運営のスタイルの総称として使われているようです。」(山崎)
- 「全ての会社がティール組織やHolacracy型になったらいいと思うのですが、これらが組織の理想の形と考えても良いのですか?」 -
管大輔さん:「上手くいってる時は良いのですが、業績が低迷したりすると難しい局面に遭遇したりします。例えば、数値目標を達成できそうになくなると、悪魔が耳元で囁くのです。
『存在意義よりも、まずは目の前の数字を作る方が大事なんじゃないか?』
短期間に結果を出すには上から命令した方が効率的が良かったりするので、どうしても指示したくなるものです。不安や恐れが生じると、人はコントロールしたくなるんだなと、身をもって実感しました。
ちなみに、このような疑念が生じる度に、毎月2回実施していたセッションで
『管さんは、元の組織に戻したいんですか?』
と問われて目が覚めました。
自分一人だけの力でマインドチェンジを実現するのは本当に難しい。周りに支えられて徐々に変化を遂げられたと感じています。
組織には理想的な形というものは無いと思います。
ティールの考え方は、「各メンバーがセルフマネジメント力を高め、相互に信頼し、存在意義を共有していれば、指示や命令がなくても自分のすべきことを理解し、それぞれが自発的に動ける状態になる」ことだと思います。
理想系を掲げなくても理想の状態を各自が考え、それに近づいていく行動を取る組織こそが理想なのです。
その状態を築くためには、オレンジ型までに見られるトップダウンの指示命令型の組織では実現できません。一部の人に権力が集中する構造を手放し、『各自の意見が尊重される関係性作り』、すなわち、 『経営者のマインドチェンジ』が必要です。そのためにもティール的なマインドを持てるように努力しています。
「ティール組織は書籍が話題になったこともあり、人事や組織運営に携わっている人の間ではある程度認知されているようですが、実際に取り組んでいる企業はまだまだ少ないようです。
第1話で管さんが語っていた、幸福経営とは『業績が好調だから社員が幸せなのではなく、社員が幸せだから業績が好調になる』という考え方がポイントで、『ティール組織やHolacracyを導入すれば業績が必ず良くなるはず』と決めつけるのではなく、まずはこれまでの常識や当たり前を、改めて見直してみることから始めることだと言えます。
ティール組織やHolacracyについては、書籍やネットの記事が読むのもよいですが、様々な場所で勉強会が開催されていますし、導入企業の担当者が登壇するようなケースも良くあります。ネットでは公開できない話も多々聞けますので、実際に足を運んで見ると良いでしょう。」
第3話では、管さんから会社員1年目のフレッシュマンに向けたメッセージをレポートいたします。(山崎)
筆者プロフィール
山崎ジョー吉
複数の企業に所属、あるいは契約をして働くポートフォリオワーカーとして働きつつ、地方での未来の働き方を発明する「金沢発!働き方の未来研究所」を立ち上げ、所長に就任し、地方における働き方改革の推進と啓蒙活動を行っている。キャリアコンサルタント。
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