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”おもてなし”は幻想? 働き方改革が進まないのは、おもてなしが原因?


9月20日に投開票される自民党総裁選に立候補した安倍首相は、党本部での所見発表演説にて「全ての地域で有効求人倍率が1倍を超えた」ことをアピールしていましたね。

平均値で見ると、1人につき1社以上求人があるということになりますが、職業別に見るとそうではないようです。

求人数が多い職業の中から上位14種をピックアップし、2018年7月の職業別有効求人倍率(原数値)(パート除く)を見てみると、有効求人倍率にかなりの開きがあることがわかります。

  • 保安 7.84倍

  • 建築・土木・測量技術者 6.06倍

  • 介護サービス3.35倍

  • 社会福祉 3.05倍

  • 金属材料製造等 2.99倍

  • 飲食物調理 2.97倍

  • 自動車運転 2.95倍

  • 接客・給仕 2.9倍

  • 情報処理・通信技術者 2.57倍

  • 保健師、助産師等 2.41倍

  • 商品販売 2.06倍

  • 営業 1.88倍

  • 製品製造・加工処理(金属除く) 1.65倍

  • 一般事務 0.33倍

有効求人倍率が高い職業は、保安、建築・土木作業員、介護、飲食店関連、IT、保健師など。一方、デスクワークが中心の一般事務は0.33倍。求職者3人に対する求人は1社しかないということになります。ハローワークの求人情報やタウン誌に掲載されている求人情報はこういった求人倍率が高い職業が大半を占めています。

 

ここからは、お客さんと接することの多い飲食店や洋服販売店など、サービス業全般に絞って考えてみます。

ところで、あなたは並ぶのは好きですか?

きっと、ほとんどの人は「嫌です」と答えるでしょうね。 でも、話題のお店はついつい並んでたりしませんか?

「ホント東京の人は並ぶのが好きだよね〜。私はできないよ〜」

私の周りでも、そんな風に言い人が多いんですが、小松市のイオンモールにできた「いきなりステーキ」にはオープンから1年ぐらいは毎日長い行列ができてました〜。

「美味しいものを食べるんだったら我慢できる!」

そうですよね。

では、病院や銀行、スーパーやコンビニのレジ待ちはどうですか?

病院の待合室で、散々待たされた挙げ句、パソコンにカルテの入力をするのに一生懸命で、ロクに触診もせず、ものの3分で診察が終わったらどうです?「私のことちゃんと診てよ!」って言いたくなりませんか?

銀行の窓口でこんな経験はないですか?(これは私の経験談です)

専用の振込用紙を使って、ATMやネットではなく、銀行の窓口で振り込んで欲しいと言われている支払いがあり、仕方なく銀行の窓口に行った時の話です。

銀行の支店に入ったら最初に何をしますか?まずは、入り口で番号札を取りますよね。目的を最初に選んでボタンを押す仕組みになっていたのですが、「振込」が書いてなくて何番を押したら良いかがわからないので、とりあえず1番を押して番号札を受け取ります。

約10人待ちだったので、スマホをいじりながら自分の番号を呼ばれるのを待ちます。もうすぐ3時。シャッターが降りるが先か呼ばれるのが先か。しかし、なんで銀行の窓口は15時で閉まるんだろう…(笑)

番号を呼ばれたので、点滅しているカウンタに行き椅子に腰掛け、番号札、振込用紙、お金を渡し、「振込お願いします」と伝えます。すると、窓口のお姉さんから、銀行指定の振込用紙を出され「住所、氏名、電話番号」の記入を求められたので、「住所も名前も振込用紙に印刷されているので、電話番号だけでいいですよね。」と返答。すると、「えっ?」て顔をされ、先輩行員に相談に行ってしまいました。少しすると戻ってきて「わかりました」と回答。

そして、「10万円を超えるので免許証など身分証明書を確認させてもらえますか?」と言われたので、免許証を提示。番号をパソコンに入力するのを待ちます。内心では、振込先は、お宅の銀行に口座があるお客さんで、しかも公共性の高い団体だから本人確認、免許証の番号の入力も要らないんじゃないの?と思いつつも…(笑)

今回は銀行の窓口での支払いを指定されていたから仕方が無いのですが、公共料金や税金ってコンビニでも支払えますよね。コンビニなら、バーコードをピッ、ピッ、ピッ、スタンプをポンポンポンの一瞬で完了。しかも、現金は同じコンビニ内にあるATMで引き出せばいいので、オールインワンで超簡単ですね!しかも、年中無休365日24時間いつでも支払えます。

振込一つとっても、銀行の窓口とコンビニでは、目的を達成するまでのプロセスと時間に大きな差がありますよね。振込業務やATMは全てコンビニに任せちゃった方が銀行に取っては良いような気もしますが、余剰人員が増えるのでそうもいかないんでしょうね。

逆に、銀行が手数料収入を増やすために、「振込は当行で」ってアピールをし、窓口でのおもてなしを強化したらどうでしょう?お客さんが増えれば当然待ち時間は長くなります。そこで、順番待ちをしているお客さんに、「今日は暑いですね!麦茶でもいかがですか?」といってうちわと一緒に渡されたら1時間待てますか?次回からコンビニで振込ますよね。

どれだけ頑張って、おもてなしをしても、顧客に不要な努力や苦痛を与えてしまったら、顧客は離れていってしまうんです。

以前、あるファーストフード店のある店員のレジだけがなぜかいつも行列になるという不思議な現象が起こったそうです。その原因を調べてみると、お釣りを渡す際に、小銭がこぼれないように反対の手を下に添えていたそうなんです。これが話題になり全店に広まったそうです。ちょっとした心遣い、とても良いですね。

レジについての話題をもう一つ。1万円札で代金を支払った際に、お釣りのお札を1枚づつ数えてくれる店員さんが多いですよね。これってどう思いますか?お釣りが間違えないよう確認するという意味では良いことかもしれませんが、お札を数える時間だけ、レジに並んでいる人全員を待たせることになっているのです。お釣りを間違えないようにするのが目的だとしたら、別の方法を考えるべきです。具体的には、お釣りが自動で出てくるレジや、キャッシュレスの仕組みを導入するという方法などがあります。お金をかけない方法では、銀行員のようにお札の数え方を学ぶという方法も考えられますね(笑)

「リッツ・カールトンのように、感動的なおもてなしを提供し続けさえすれば、きっとリピーターになってくれ、LTV(顧客生涯価値)を最大化することができる!」なんて言う人もいますが、ラグジュアリーなホテルやブティックでない限り、必要は無いんです。むしろ、顧客に不要な努力をさせて、顧客ロイヤリティを下げないことです。

「おもてなし幻想 - デジタル時代の顧客満足と収益の関係- 」という本では、10万人弱のカスタマサービスの利用者に対して調査を行った結果、カスタマーサービス・インタラクション、つまり、過剰な接客は、ロイヤリティを向上させるどころか低下させる可能性が4倍も高いと書いてあります。

ネットで友達が紹介していた本を買いに、近くの本屋さんに行ったとします。広い本屋さんからその本を探すのは大変ですよね。本を場所を探す端末もあるのですが、キーボードがあいうえお順のだったりすると大変。頑張って検索した結果、在庫がなかった。仕方なくレジで取り寄せてもらおうとすると、2週間もかかると言われたり・・・。「最初からAmazonに注文しまえばよかった。」というのもわかりますよね。しかもAmazonのマーケットプレイスで中古本が安く買えたりします。

また、GUやユニクロ、吉野家、大戸屋といった大手のチェーン店では、セルフレジの導入が着々と進んでいます。中でもGUのセルフレジは良くできています。全ての商品にICタグが付けてあり、購入したい商品をレジのボックスの中に入れるだけで、バーコードをピッってしなくても、まとめて一瞬で料金が表示されます。あとは精算するだけ。洋服を畳んで袋詰する作業はお客さん自身がするのですが、多くの人は気にせずさっと袋に入れる帰るそうです。

セルフレジに初めて触れるお客さんにとっては「えっ?」と思う人も多いかもしれませんが、そこは店員さんがきっちりフォローアップしてくれますし、通常のレジも残っています。お店側にとってはレジ打ちのスタッフを何人も配置する必要がなくなるので助かりますね。また、お客さんにとってレジ待ちしなくて済むというのは、顧客に与えていた、不要な努力や苦痛を一つ取り除くという効果があります。

日本ではチップという慣習はありません。したがって、顧客サービスは無料だと思っている人が大半です。しかし、全ての顧客サービスは無償であるべきだという意識を消費者側も変える必要があるのです。ファーストフード店やセルフサービスのお店に高級ホテルのような接客を求めてはいけないのです。

過剰なおもてなしを見直し、顧客に不要な努力や苦痛を与えないようにすることで、顧客ロイヤリティを下げる要因を減らせるということは何となくでも理解していただけたかと思いますが、顧客ロイヤリティを上げるにはどうしたら良いのでしょう。

「おもてなし幻想」では「経験工学」という表現を使って説明しています。

経験工学とは、「注意深く選択した言葉遣いで会話をコントロールしてその舵取り、告げられている内容を顧客がどう解釈するかを改善することである。」と説明しています。

具体例をあげた方がわかりやすいですね。経験工学を活かしたやりとりの一つをご紹介しましょう。

買ったばかりの自転車が壊れた。コールセンターに電話をした時の話。

顧客: 「買ったばかりの自転車が故障したんです。」

担当者Aの対応: 「故障ですね。あなたのお住まいの近くででしたら、○○自転車にお持ちください。」

担当者Bの対応: 「お客様、自転車が故障したんですね。それは申し訳ございません。イライラするお気持ちをお察しします。まずは、同じ車種で同様の問題が起きていないか調べてみますので少しお待ち下さい。お客様、どうやら同じ事例などの報告は無いようです。お客様、もしよろしければ、お住まいの近くの○○という自転車屋さんまでお持ちいただくことはできませんか?できれば、保証期間が○月○日までなので、それまでにお持ちいただくとありがたいのですが・・・。」

どちらの担当者も、販売店に持ち込んでほしいという意味で回答は同じなんですが、顧客に与えた影響は劇的に違うそうです。担当者Bの対応を聞いた顧客が報告した経験の質は、担当者Aの対応を受けた人の報告よりも67%高かった。顧客努力という点からそのやりとりを評価すると、担当者Bのやりとりにおける顧客努力が77%も低かったそうです。

つまり、担当者Aの対応では、お客さんは嫌々自転車屋さんに持ち込むのに対し、担当者Bの対応だとお客さんは持ち込むための努力を感じないそうです。

東京オリンピックに向けてボランティアの募集が始まりましたね。ボランティアの皆さんは、最高のおもてなしを提供しようと張り切っている人も多いことでしょう。しかし、過剰なおもてなしを追求するよりも、来場者に努力を感じさせないことが重要なのです。今年のような酷暑だったら、努力をさせずに、どうやって苦痛を和らげてあげる事ができますか?課題は山積みですが、まだまだ時間はありますので、知恵を出し合う事が必要ですね。

日本の良さの代名詞ともいえる”おもてなし”ですが、欧米を経由してホスピタリティといった表現をしたり、サービスと混同しているケースが多いようですが、本来の意味は「表裏なく見返りを求めないもの」です。決して、感動やサプライズを与えて喜んでもらうことでは無く、さり気なく手を添えることが大切なのです。

 

筆者プロフィール

山崎ジョー吉

複数の企業に所属、あるいは契約をして働くポートフォリオワーカーとして働きつつ、地方での未来の働き方を発明する「金沢発!働き方の未来研究所」を立ち上げ、所長に就任し、地方における働き方改革の推進と啓蒙活動を行っている。

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